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過労死に対する会社と名目上の代表取締役の責任

目次

過労死に対する会社と名目上の代表取締役の責任

過労死について会社や取締役は損害賠償責任を負うのでしょうか。

過労死について安全配慮義務違反や因果関係が認められれば、会社は債務不履行または不法行為に基づく損害賠償責任を負います。

取締役も会社法429条1項に基づき過労死について損害賠償責任を負うことがあります。

以下では、過労死について、会社と代表取締役の責任が問題となった事例を紹介します。

過労死に対する会社と名目上の代表取締役の責任が肯定された事例

事案の概要

  • レストランにおいて料理長(店長)として勤務していた亡Aが不整脈による心停止を発症して死亡したことは、長期間の過重労働(発症前の6か月間において、おおむね毎月100時間を超える時間外労働)に起因するとして、亡Aの相続人である原告らが、亡Aの勤務先であった会社(「被告会社」という。)とその代表取締役であった被告(「被告Y2」という。)に対して、債務不履行等による損害賠償を請求。
  • 被告会社は、原告らの請求に対し以下の主張をし、被告会社の責任を争いました。
    亡Aは手待ち時間が多い店舗に勤務しており、その時間は休憩時間とみなされるべきである。
    亡Aに店長という役職がついていたものの、役職に伴う職責はほとんどなかった。
    本件発症は、亡Aがもともと有していた可能性のある持病の発現にすぎない可能性が高い。
  • 被告Y2は、自身の立場について、被告会社に名前だけを貸して被告会社の代表取締役として登記がされていたにすぎず、被告会社の取締役としての職務を行うことが予定されておらず、実際にも職務を行っていなかった事情に鑑みると、亡Aに対して安全配慮義務を負う関係になく、会社法429条1項に基づく責任を負うこともないとして、原告らの請求に対し争いました。

株式会社まつりほか事件(東京地裁令和3. 4.28判決・労判1251号74頁)

主たる争点(本投稿で紹介する争点)

  • 長時間労働に関する会社の安全配慮義務の内容
  • 代表取締役の長時間労働に対する善管注意義務の内容
  • 名目的な代表取締役も損害賠償責任を負うか

裁判所の判断

裁判所は以下のように判示しました。

(被告会社の安全配慮義務違反の有無)について

争点(2)(被告会社の安全配慮義務違反の有無)について
   使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴い疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うというべきであり(最高裁平成10年(オ)第217号,第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号115頁参照)

まず、安全配慮義務違反の内容について、電通事件(最判平成12年3月24日判決)を引用しました。

そして、本件においても、被告会社は、「雇用者として,被告会社の業務に従事する亡Aが業務の遂行に伴い生命,健康を損なうことのないよう,亡Aが業務に従事する状況について労働時間や労働内容を把握し,必要に応じてこれを是正すべき措置をとる義務」があると判示しました。

その上で、具体的な義務内容として、亡Aの死亡が長時間労働により生じたことを前提に、最短で月123時間、平均132時間超であったことからすれば、発症の1か月前には、長時間労働を把握し、時間外労働を制限する方法などにより業務上の負担を軽減すべき義務を負うべきであったとしました。

しかし、会社側は、以下の①②のまま、③の長時間労働に従事させた結果、④のとおり本件発症に至らせ、安全配慮義務違反に違反したと認定されました。

STEP
亡Aを含む従業員の健康診断を実施せず、その健康状態について何ら留意していなかった
STEP
亡Aについてタイムカードを付けさせず,亡Aの労働時間を把握しない
STEP
亡Aに107時間55分もの長時間の時間外労働に従事させた
STEP
上記①~③により亡Aについて本件発症に至らせた

名目上の代表取締役の責任

代表取締役である被告Y2は、「従業員の労働時間や労働内容を適切に把握し,必要に応じてこれを是正すべき措置を講ずべき善管注意義務を負っていた」にも関わらず、「被告会社の業務執行を一切行わず,亡Aの労働時間や労働内容の把握や是正について何も行っていなかった」ことから、職務を行うにつき悪意または重過失があると認定されました。

被告Y2は、名目上の代表取締役であったのであるから、重過失はなかったと主張しましたが、代表取締役の選任手続は適正になされ、登記手続きも自らの意思で行っていることから、報酬を得ていないことや業務執行に関わる必要がないという内部的な合意が存在したとしても、会社法429条に基づく責任を免れるわけではないとして、一蹴されています。

 

過労死事案における安全配慮義務違反等のポイント

上記裁判例のとおり、一般に経営者は、「使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴い疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」を負っています。

したがって、具体的な事案において、「雇用者として,被告会社の業務に従事する亡Aが業務の遂行に伴い生命、健康を損なうことのないよう、亡Aが業務に従事する状況について労働時間や労働内容を把握し、必要に応じてこれを是正すべき措置をとる義務」を負っていたことになります。



具体的に会社や取締役は何をすればよかったのでしょうか。

少なくとも、①従業員の健康診断を実施して、その健康状態について留意し、②タイムカードなどにより労働時間を把握し、③労働時間を軽減するなどして業務負担を軽減させるべきでした。

名目上の代表取締役も労災事故について損害賠償責任を負うのですね。

すべての労災事故について名目上の代表取締役が責任を負うわけではありません。

取締役は、従業員の労働時間や労働内容を適切に把握し,必要に応じてこれを是正すべき措置を講ずべき善管注意義務を負っています。

それにも関わらず、業務執行を一切行わず、労働時間や労働内容の把握や是正について何も行っていなかったような場合、職務を行うにつき悪意または重過失があると認定されます。

名目上の取締役であり業務を行っていなかったという言い分は認められない可能性が高いです。

したがって、安易に取締役に就任しないことが重要です。

そして、取締役になる以上、従業員の労働時間や労働内容を適切に把握し,必要に応じてこれを是正すべき措置を講ずるということが重要です。

具体的には、労働時間を把握して、労働安全衛生法等に従って長時間労働を抑制し、健康診断を受診させたりする必要があるということです。

なるほど。

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松坂典洋
弁護士・社会保険労務士
労災問題に特化する弁護士・社会保険労務士です。労災案件を会社側・労働者側双方から依頼を受けることが多く、労災事故後の対応を誤ることにより、深刻な運送となる案件を目の当たりにしてきました。労使双方にとって不幸な状況を回避するために、労災事故の紛争解決と発生防止に取り組んでいます。
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