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労災事故の責任を負うのは誰か

目次

多重下請関係の事故における労災処理

発注者から受けた元請負企業が下請負企業に、下請負企業が孫請負企業に委託することにより、建設工事、製造の現場において、複数の会社の従業員が業務に従事するという状況はよくあります。

こうした状況で事故が発生して下請負企業の従業員がケガをした場合、労災はどのように処理されるでしょうか。

この場合は、通常、元請負企業の労災保険を使用することになります。

ただし、労災保険に特別加入している事業主・一人親方等が負傷した場合には、事業主・一人親方等の労災保険を使用することになります。

下請負企業の従業員に対する元請負企業の損害賠償責任 

元請企業は、労災事故の被害に遭った下請企業の従業員に対し、損害賠償責任を負うのでしょうか?

結論としては、責任を負う場合もあれば、負わない場合もあるということになります。

下請負企業の従業員は、下請負企業との間に雇用契約はありますが、元請負企業との間に雇用契約はありません。

伝統的な考え方では、直接の契約関係がない以上、元請負企業は、下請負企業の従業員の労災事故について損害賠償責任を負わないことになります。

しかし、下請負企業の従業員が元請企業の指揮命令下で仕事をしている中で労災事故が発生することがあります。

裁判所は双方の関係の実態に着目して、元請負企業の責任を肯定する場合があります。

発注者・元請企業の責任が問題となった最高裁判例及び裁判例

安全配慮義務

陸上自衛隊八戸車両整備工場事件の最高裁判決(最判S50.2.25民集29巻2号143頁)は、安全配慮義務について「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」と判断しました。

そして、上記の安全配慮義務の理解を前提に、裁判所は、次のとおり、下請企業の従業員の労災に対する元請企業の賠償責任を認めるようになりました。ただし、元請企業の責任を否定する事例もあります。

鹿島建設・大石塗装事件・最判S55.12.18労判359号58頁

建設元請会社の下請会社従業員に対する安全配慮義務について、最高裁は、二審判断を維持して安全配慮義務に基づく損害賠償請求を認容しました。

最高裁が直接に下請会社の従業員に対する安全配慮義務違反について判断した事例ではありません。

三菱重工神戸造船所事件・最判H3.4.11労判590号14頁

最高裁は、造船元請会社の下請会社従業員に対する安全配慮義務に関して、①元請会社の管理する設備,工具等を用いていたこと、②事実上元請会社の指揮,監督を受けて稼働していたこと、③作業内容も元請の従業員であるいわゆる本工とほとんど同じであったことといった事情の下では,元請会社は,下請会社従業員との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので,安全配慮義務を負うと判断しました。

上告人の下請企業の労働者が上告人のD造船所で労務の提供をするに当たっては、いわゆる社外工として、上告人の管理する設備、工具等を用い、事実上上告人の指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容も上告人の従業員であるいわゆる本工とほとんど同じであったというのであり、このような事実関係の下においては、上告人は、下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので、信義則上、右労働者に対し安全配慮義務を負うものであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。

テクノアシスト相模事件・東京地判H20.2.13労判955号13頁

請負企業の従業員の労災事故について、注文者の安全配慮義務を肯定して、元請企業だけでなく、注文者に対しても請求を認容した事例です。

注文者との間の実質的に使用従属の関係が認められるとした理由は次のとおりです。

  • 注文者の供給する設備,器具等を用いて作業をしていた
    • 本件作業は、注文者の工場内の注文者が所有する機械・設備が設置された場所で行われていた。
    • 作業の内容も、注文者が所有するラインのライン上を流れる缶蓋の検査であった。
    • 作業台も注文者の所有物であった。
  • 元請企業の従業員は,実質的には注文者の指示の下に労務の提供を行っていたと評価できる
    • 注文者の製造第一課の課長職は、作業台を準備し、請負企業の取締役に対し、本件検蓋作業の内容,手順などを詳細に説明していた。
    • 請負企業の取締役が従業員に対し、注文者の課長職の説明どおりに指示を与えていた。
    • 本件検蓋作業のラインの稼働を管理していたのは,元請企業ではなく注文者であった。

O技術〔労災損害賠償〕事件・福岡高那覇支判H19.5.17労判945号24頁

以下の事情から元請会社は,孫請会社の従業員に対して安全配慮義務を認めました。

  • 孫請会社は、工事施工に当たり元請会社から元請現場代理人を通して、日々の作業を管理され指示を与えられるなど、直接・間接に指揮監督される関係にあった。

空港グランドサービス・日航事件・東京地判H3.3.22労判586号19頁

注文者たる会社と請負人の従業員との間に、実質的に雇用関係が存在するのと同視できる使用従属の労働関係がないとして、安全配慮義務を否定しました。

東京エコン建鉄等事件・横浜地判H2.11.30労判594号128頁

建設工事孫請の労働者の労災事故について、元請会社が現場を支配し,その指揮監督の下に孫請配下の労働者が作業に従事していたことを前提に、下請会社が指揮命令権を行使することはなかったとして、下請会社の安全配慮義務を否定しました。

裁判所の判断のポイント

以上のとおり、裁判所は、元請企業が常に下請企業の従業員に対し、労災事故の損害賠償責任を負うとしているわけであはりません。

元請企業と下請企業の従業員の間の「実質的な使用関係」OR「直接的または間接的指揮監督関係」に基づき安全配慮義務違反を負うか否かは、次の事情に基づき判断されると考えられます。

  1. 元請会社の管理する設備,工具等を用いていたか
    1. 就労場所、ユニフォーム、工具、資材
  2. 事実上元請会社の指揮、監督を受けて稼働していた
    1. 現場事務所の設置、現場代理人等の常駐・派遣
    2. 専属性の有無
  3. 作業内容も元請の従業員と同じであったか
    1. 具体的な作業内容に関する元請と下請との比較

会社の役員個人が責任を負う場合はあるか。

労災事故を発生させた会社に対し被災労働者が損害賠償請求する事はよくありますが、小規模な会社の場合、会社に資力がなく会社の責任が認められたとしても損害賠償の全額を回収できないケースがあります。

また会社よりも代表取締役や上司の取締役に対し責任追及したいと考える被災労働者もいます。

そのため、会社に加えて役員等個人に対しても損害賠償請求がなされることがあります

しかし、会社に対する損害賠償請求が認められた場合に、必ず役員等個人に対する損害賠償請求が認められるわけではありません。

小規模の会社では、役員等が、現場で労働安全衛生に関わっていて、安全配慮義務や注意義務に違反するケースもあります。こうした場合には当然役員等個人の損害賠償責任を負うことになります。

役員等が現場に関与していない場合は責任を負わないのでしょうか。

そうではありません。役員と個人が被災労働者の働き方の実態や安全管理体制の実情について直接管理していたり把握していたりするような場合に労災事故が発生したのであれば、会社だけでなく役員等個人も損害賠償責任を負うことがあります。

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派遣の場合に責任を負うのは派遣元か派遣先か

「派遣先の会社の責任」

派遣先の会社は派遣労働者に対し直接指揮監督間を有しているため派遣労働者と派遣先の会社とのあいだには特別の社会的接触が認められます。従って派遣先の会社は派遣労働者に対し安全配慮義務違反があれば損害賠償責任を負うことになります。

「派遣元の会社の責任」

では派遣元の会社は派遣労働者に対し労災事故の損害賠償責任を負うでしょうか。

派遣元の会社は現場において派遣労働者に対し指揮命令するわけではないため、安全配慮義務が認められる特別な社会的接触の関係が認められるかが問題になるわけです。

しかし、派遣元の会社は、派遣労働者との間で労働契約を締結して、派遣先の事業所において就労するように命令します。

そのため派遣元の会社は労働契約法5条の安全配慮義務を負います。

また派遣法31条に基づき、派遣先の事業所において安全衛生が確保されるように配慮する責任を負います。

さらに労働者派遣契約を締結する際に派遣労働者の安全を確保するために様々な義務を負っています。

派遣元の会社は派遣労働者の雇用主ですので労働安全衛生法上の義務を負います。

したがって派遣元の会社が安全配慮義務に違反すれば派遣労働者に対し損害賠償義務を負うことになるわけです。

この点、派遣元の会社の損害賠償責任が認められた事例としてテクノアシスト相模事件があります。

松坂典洋
弁護士・社会保険労務士
労災問題に特化する弁護士・社会保険労務士です。労災案件を会社側・労働者側双方から依頼を受けることが多く、労災事故後の対応を誤ることにより、深刻な運送となる案件を目の当たりにしてきました。労使双方にとって不幸な状況を回避するために、労災事故の紛争解決と発生防止に取り組んでいます。
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