働き方が多様化し、雇用形態も様々な昨今、正社員ではない従業員が労働災害にあった場合に労災保険給付を受給できるかについて相談を受けることがあります。
そこで、正社員以外の労働者が労災保険給付を受けられるか、それぞれの立場に分けて解説します。
労災保険における労働者とは
まず、労働災害にあった従業員が労災保険給付を受給するには、労働者災害補償保険法上の「労働者」であることが必要です。「労働者性」と言われたりします。
「労働者性」は、①使用されているか、すなわち指揮監督下の労働あるか、と、②賃金支払を受けているか、すなわち、報酬が提供された労務に対するものであるか、で判断されると言われています。
そして、上記2つの基準を併せて、「使用従属性」といいます。
「使用従属性」は、具体的には以下の事情によって判断されます。
・仕事の依頼、業務の指示等に対する諾否(受ける OR 断る)の自由の有無
断ることができる場合は、使用従属性が弱まります。
・業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
仕事の内容や順序などについて事業主やその従業員から指示や指揮命令がある場合、使用従属性が強まります。
・勤務場所・時間についての指定・管理の有無
仕事場所の指定や、出退勤について時間管理(始業時間・休憩時間・終業時間・残業など)を受けている場合、使用従属性が強まります。
・労務提供の代替可能性の有無
事業主から依頼された仕事を、自分の判断でさらに別の人に任せたり下請けに出せるような場合、使用従属性が弱まります。
・報酬の労務対償性
報酬の支払われ方が、時給・日給(日当)・月給の場合、使用従属性が強まります。
一方、仕事(現場など)毎の支払いや出来高払いの場合、使用従属性は弱まります。
・事業者性の有無(機械・器具の所有・負担関係など)
作業などに使用している機械や工具、原材料などを事業主が用意している場合、使用従属性が強まります。
・公租公課の負担(源泉徴収や社会保険料の控除の有無)
受け取るお金から税金が天引きされている(源泉徴収)場合や社会保険料を事業主が負担している場合は使用従属性が強まります。
一方、消費税を請求していたり、確定申告をしている場合は、使用従属性が弱まります。
・専属性の程度
その事業主からだけ仕事を受けている場合、使用従属性が強まります。一方、他の事業主からも仕事を受けている場合、使用従属性は弱まります。
以上のように、労働者性を判断するのに一定の基準がありますが、働き方や雇用形態が多様化している現代において、完全な認定基準とは言えず、事案によって慎重に検討することが重要です。
派遣されている労働者は労災保険給付を受けられるか。
派遣労働者は労災補償の対象となるのでしょうか。
もちろん、派遣労働者も使用従属性が認められるので、労働者として労災保険給付を受けられます。
派遣労働者が労働災害に遭った場合、労災保険の適用は派遣元会社になるのか、それとも派遣先会社になるのでしょうか?
派遣労働者が労災に遭った場合、労災保険の適用は派遣「元」会社となります。
労災保険法3条1項において、「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする」と定めており、ここでいう「使用する」とは、労働基準法等における「使用する」と同様労働契約関係にあるとされています。
派遣労働者は、派遣「元」会社との間で労働契約を締結していますので、労災保険の適用も、派遣「元」会社となるわけです。
出張または出向中の労働者が怪我や病気をした場合、労災保険給付を受けられるか
出張先で伝染病にかかってしまったような場合、労災保険給付は受給できるのでしょうか。
出張の場合、特に労働契約の内容に変更がなく、通常の勤務地の事業主からの指揮命令を受けて別の現場に赴くため、勤務先の事業場に所属・在籍する労働者として、労災保険の適用を受けることができます。
なお、出張に出発して帰宅・帰社するまでの途上で発生した災害は通勤災害ではなく業務災害とされます。
一方、出張期間中であっても、観光など私用を行っている最中に発生した災害は、当然、業務災害とは認められません。
発生した事故が、「出張に当然又は通常伴う範囲」のものかどうかによって、業務遂行性が判断されるわけです。
試用期間中、研修期間中またはインターン中の怪我や病気について、労災保険給付を受けられるか
試用期間中や研修期間中の従業員は労災保険給付を受けられるのか
試用期間中であっても、その事業主に雇用されて賃金を支払われている以上、使用従属性が認められ、労働者であることに変わりはないので、当然、労災保険は適用されます。
研修期間中の従業員についても、入社後であれば同様の扱いです。(入社前の取扱いについては、以下に詳述します。)
インターンは労災保険給付を受けられるのか
インターンや入社前の研修期間中の被災については、労働者性が認められるかどうかで労災保険給付を受けられるのかが決まります。
判断のポイントは、
- 見学や体験的なものを超えて、直接生産活動などに従事させられている
- 事業主からの指揮命令を受けて仕事をしている実態がある
- 事業主からの金銭支払の有無やその額
と言われています。より具体的にいうと、
- ・業務内容が軽い補助作業のレベルを超えている
- ・研修期間やインターンの学生を戦力として予定した人員体制になっている
- ・現場のやりとりが「実習指導」のレベルを超えた指揮・指示と評価できる
- ・遅刻・欠席すると企業から制裁される
- ・作業指示を断れない
- ・時間的・場所的に拘束されている
- ・期間中、別のアルバイトなどが禁止又は事実上できない
といった実態があれば、労働者性を肯定される可能性が高まります。
入社前の研修で怪我をしてしまうことは少なくありません。そんな場合も、使用従属性が認められれば、労災保険給付を受けられます。
アルバイト、パートが怪我や病気なった場合、労災保険給付を受けられるのか
アルバイトやパートは、一般に使用従属性が認められ、当然に労働性を肯定できますので、労災保険が適用されます。
取締役、執行役員、執行役等が怪我や病気になった場合、労災保険給付を受けられるのか。
取締役や執行役員等は労災保険給付を受けられるのか
取締役
取締役は、通常、会社の経営主体として業務執行権をもち、賃金ではなく役員報酬を受け取っていることから、「労働者性」が認められません。
したがって、基本的には、労災保険給付を受けられません。
しかし、例外的に、「取締役」等の肩書があっても、実質的に業務執行権を持たず、代表者の指揮命令の下で働いているにすぎない場合は、労働者性が認められる可能性がありますので、労災保険給付を受けられます。
執行役員
執行役員は、実は、法律上の規定のない名称です。
実態として、執行役員は、会社の業務執行を行う役職として、取締役と部長クラスの従業員との中間あたりに位置するポジションとして位置づけられているケースが多く、使用従属性があれば労働者性が肯定されますので、労災保険給付を受けられます。
執行役
執行役員に似ている名称として、執行役があります。
執行役は、執行役員と違い、法律上の規定のある会社の機関で、取締役会決議によって委任された事項に関して業務の意思決定ないし執行を行うことができることになっています。
したがって、労働者性が認められるかどうかは、取締役と同様となります。
ダブルワークをしていますが、副業先で被災した場合、労災保険は受給できますか?また、どちらの会社の労災保険が適用されますか?
副業での業務中に被災した場合、副業先の会社で加入している労災保険が適用され、その労災保険給付を受給できます。
ただこの労災で受給できるのは、副業での収入を基本としており、本業も休業せざるを得なくなっても、本業分は補償されないため、休業中の収入が激減するという事態が生じていました。
このような問題を受けて、2020年9月に労災保険法の改正が行われ、副業を行う労働者に対する労災給付は、「全ての就業先の賃金を合算した額」をベースとすることになりました。
フリーランスで活動している時に事故に遭った場合、労災保険給付は受けられるのでしょうか?
フリーランスの場合、会社に雇用されていたり賃金を支払われるといった使用従属性に該当せず、そもそも労災保険に加入していませんので、労災保険給付を受給することはできません。
ただ、働き方の多様性に伴い、昨今、労災保険への特別加入が拡大される動きが活発化しています。
形式上、フリーランス(業務委託)となっていても、実態として使用従属性が認められ、労働者として労災保険の適用が認められるケースもあります。
外国人従業員が病気や怪我をした場合、労災保険給付を受けられるのか
もちろん、国籍問わず、労働者性が認められる従業員は労災保険給付を受けられます。
資格外活動の留学生アルバイト、技能実習生、特定技能にも適用されます。